
人間をはじめとするほ乳類は、他の動物と違い、おっぱいで子供を育てます。
だからこそ、親子関係・集団生活がとりやすく、地球上にこれほどまでに広がったのかもしれません。
母乳は、栄養面や感染防御面など様々なメリットがありますが、対人関係の確立、情緒の発達などに対して多くの影響力を持っている点も見逃せないところ。
ここでは、母乳育児の大切さとそのポイントについてお話ししていきます。
お母さん方に「どんなお産がいいですか?」とお聞きすると、ほとんどの人が「自然出産です」とお答えになります。
でも、その通りなのです。女性が持てる力で自分の赤ちゃんを出産する。これが理想です。
ソフロロジーを通して妊娠期から母性をはぐくみ、自然な流れの中でいつも赤ちゃんと一緒にいる。そして、自分のおっぱいで赤ちゃんを育てることができれば、やっぱり最高。最近の遺伝子組み替え食品やダイオキシンなどの問題を思えば、なおさらです。
でも、自然出産にしても母乳で育てるにしても、お母さんがそうしてあげたいと思う気持ちが一番尊いものかもしれません。
『母乳は正期産新生児においてまず選択されるべき完全栄養源であり、病的新生児や早期産児に対しても強く進められるものである。』(アメリカ・ハーバード大学の新生児マニュアルより)
母乳は、赤ちゃんが育った子宮の持ち主がつくるもの。
清潔で経済的でもありますが、まずこれ以上のものはないでしょう。
タンパク質や脂肪、炭水化物などが含まれ、消化吸収もスピーディ。
特にタンパク質は、分解されやすいホエイが大半を占めています。
牛乳の場合は、分解されにくいカゼインが大半なので、加工時に熱処理で分解しやすくした上でホエイ成分がプラスされているのです。
母乳は完全栄養源で吸収も良いので、赤ちゃんはほとんど便秘をしません。
また、母乳で育った場合は乳酸菌がたくさん出現するのに対し、人工乳の場合は大腸菌が多くなり、臭いうんちや固いうんちになりやすいようです。
脂肪の消化を助けるリパーゼも含まれているので、何らかの原因で母乳がなかなか出ない場合でも、人工乳に母乳を少し混ぜておくことは意味のあることでしょう。
母乳に含まれる白血球や免疫グロブリン、リゾチームなどは、外部からのバイ菌やウイルスに対する抵抗性を確保。
これらは、人工乳には添加されていません。また、母乳で育った場合は、呼吸器感染や中耳炎、髄膜炎などに罹りにくいことが知られています。
最近の研究では、O-157に感染した母体はへその緒から免疫グロブリンを赤ちゃんに送り、母乳の中にも大量に産生することで、赤ちゃんへの感染を防いでいたことが実証されました。
“歯並びの悪い子が増えた”と嘆く歯医者さんがおられます。
赤ちゃんの哺乳行動は、歯グキで乳頭の基部にある乳管洞をおさえて、出てきた乳汁を吸うといった感じ。
ただ単に吸い付くのではなく、結構がんばって飲んでいるのです。
哺乳ビンは振ったら出てくるものがほとんどなので、歯グキの発達はもう一つでしょう。
先進国では、分娩後、正常に経過すればすぐに退院させるようになってきています。
当然、赤ちゃんとお母さんはいつも一緒。これは、欧米各国では『子ども権利条約』にも示されていることで、当然のことなのだそうです。
でも、以前はそうではありませんでした。入院施設も、感染を防ぐという観点から母子分離がほとんど。
“子どもは早く自立させなければならない”“泣いてもすぐには抱っこもしてはいけない”という考え方が浸透していたからです。
ところが、こんな実験結果があります。
『母親ザルは、出産直後に子ザルから離されてしまうと、子ザルのことを忘れてしまう。たとえ子ザルが戻ってきても、自分から子ザルを遠ざけてしまう。子ザルも、ミルクで何とか大きくなるが、仲間と遊ぶことはなく、一人離れて震えている。』
人間の赤ちゃんも、産まれる前はお母さんの体内で育まれ、分娩時には大変な思いでこの世に出てくるわけですから、お母さんから離されるとストレスを感じます。
また、サイレントベビーになる可能性があり、後々の親子関係にも問題が出てくるでしょう。
しかし、日本の多くの産科施設は未だに母子分離状態。“これじゃいけない”ということで当院も徐々に施設を整備して、母子同室ができるようになりました。
※母子同室については、「入院について」ページをご覧ください。
赤ちゃんは、産道を通る時に“死んじゃうんじゃないかなあ”という思いで産まれてくるのだそうです。
分娩時の産声も、実は“こわかったよう”という表現だとする心理学者もいるほど。
大変な思いで産まれてくるわけですから、しっかり抱っこしてあげてください。お腹の中の胎動がわかり始めた頃にはすでに耳が聞こえるようになっていて、産まれてくると、ずっと聞いてきたお母さんの声がする方向をみて目をあけようとします。
すると不思議なことに、赤ちゃんは泣き止んで静かにお母さんの顔を見つめるでしょう。そしてまわりをペロペロなめ始め、おっぱいを探します。実際、『出生直後の赤ちゃんをお腹の上においておけば、20〜30分後にはおっぱいを吸いにいく』という研究結果があります。
たいていの赤ちゃんは、出生後2〜3時間はしっかりと周囲を観察しています(これを、“ゴールデンタイム”といいます)。
分娩時の体験を覚えている子供たちがいますが、ほとんどがこの2〜3時間の体験です。
先にもお話しましたが、猿の世界ではこの時間が子ザルの一生を左右するのです。
赤ちゃんがおっぱいを欲しがったら、すぐに吸わせてあげてください。そして、家族みんなで祝福してあげてください。
よく、お母さん方から“夜眠れなくて大変”という声を聞きます。
なかには、“私ってマタニティーブルーなのかな”と思い込まれるお母さんがいるほど。夜泣きの激しい赤ちゃんもいますが、なかなか眠れないのは、プロラクチン(おっぱいを出すホルモン)の分泌パターンと関係があります。
例えば、赤ちゃんが俄然元気になり、おっぱいを欲しがる午前4時頃。
この時間帯は、プロラクチンも多く分泌されます。ところが、このホルモンは目をさまさせる作用が強く、お母さんはどうしても目が覚めてしまいます。
『そばに赤ちゃんがいてもいなくても、お母さんの目覚める回数はほとんど一緒だった』という研究結果があるように、必ずしも赤ちゃんが原因ではないのです。
出産2日目になると、赤ちゃんは“おっぱいくれくれサイン”を頻繁に出してきます。
おっぱいのトラブルもよく見られますが、4日目あたりからおっぱいの分泌はよりスムーズになります。
但し、退院後に以下のような症状が見られた場合は、「母乳外来※」を受診してください。
●乳口炎・・・・・・
乳頭に白い斑点。母乳が詰まるため、乳頭を押さえると痛む。
乳房の一部も張り、痛みを伴う。
●乳腺炎・・・・・・
乳汁が溜まるケースと、バイ菌に犯されるケースがある。熱がある場合は抗生物質の投与が必要だが、搾乳できれば問題ない。
●その他・・・・・・
咬み傷や乳頭亀裂、分泌不良など。
※母乳外来については、「外来紹介」ページをご覧ください。
以前は“病原菌への感染を防ぐためにも赤ちゃんは隔離しておく”という考え方が主流でした。
しかし、ある大病院の新生児室で「緑膿菌」への集団感染が起こり、赤ちゃんが死んでしまう事故が起こりました。
この他にも、MRSA(抗生物質が利かない菌)や毒性の菌が流行するケースは後を絶ちません。実は、赤ちゃんへの清潔・不潔の“ものさし”は少し違うようなのです。
正常な皮膚は「常在菌」を持ち、異常な菌の進入をガードします。
赤ちゃんは、お母さんと一緒にいることで健康な「常在菌」をもらい、身を守っているのです。実際、新生児室でしばしば発生していた「膿痂疹※」が、母子同室にするだけで減少しています。
お母さんと赤ちゃんが一緒にいることは、感染防御面でも理にかなったことなのでしょう。
※膿痂疹とは、細菌感染によって赤ちゃんの顔にできる発疹です。
生まれてしばらくの間は、お母さんと赤ちゃんが一緒にいると哺乳はだいたい1日10回以上。
乳頭が刺激されるほどプロラクチンの分泌も増え、母乳はさらに出やすくなります。
“お母さんが出してあげる”というより“赤ちゃんが吸い出してくれる”といったほうが正確かもしれません。
事実、WHO/UNICEFも『おっぱいで育てるにはお母さんと赤ちゃんは一緒にいないとうまくいかない』と明言しています。
母乳が出るようになれば自然に自信もついてきますが、実はこれがとても大切なのです。母子分離が主流だった頃は、退院後に初めて“赤ちゃんってこんなに泣くのか”と気づいたり、“本当におっぱい飲んでるのかな”と不安になってミルクに移行してしまったり…そういったお母さんが、大勢いらっしゃいました。
諸外国に比べ、育児がイヤだと言うお母さんの数がもっとも多いのは日本だということをご存じですか。
母乳育児率も40%程度で、これも先進国の中では低いレベルです。
母乳育児は、栄養免疫の利点だけでなく、スキンシップを中心とした母と子の絆の確立のためにも、21世紀の日本においては最重要課題です。
幼児虐待や家庭内暴力、少年犯罪など信じられない事件が多発していますが、揺るぎない親子関係を作りあげるためにも、母乳育児はとても大切なものだと私たちは考えています。
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医療法人 定生会 谷口病院